障害者雇用の業務の切り出し方
―「任せる仕事がない」を解消する3ステップ
🤖 3行でわかる障害者雇用の業務切り出し方
- 「任せられる仕事がない」という悩みの多くは、一人分の専任業務がまるごと空いている状態を探すことによる思い込みであり、社員が日常的にこなす付随作業を集めれば一人分の役割になることが多い。
- 業務の切り出しは、社内の付随作業を洗い出す、手順や判断の要否で作業を分解して整理する、分解した作業を一人分の役割にまとめる、という3つのステップで進める。
- 切り出しの失敗で特に多いのは、一部署だけで業務を探して作業量が足りなくなるケースと、現場を巻き込まず人事担当者だけで業務内容を決めてしまうケースである。
監修:山下 勝之(C&C株式会社 代表取締役)
障害者雇用の支援サービス比較メディア「障害者雇用ベンダー比較ナビ」運営責任者。本記事は厚生労働省・JEED(高齢・障害・求職者雇用支援機構)の公表資料や公的な業務改善の考え方をもとに作成し、内容を確認しています。
障害者雇用を進めるうえで、多くの企業が最初につまずくのが「任せられる仕事がない」という悩みです。しかし実際には、仕事が「ない」のではなく、社内に散らばった作業がまだ「切り出せていない」だけであることが少なくありません。この記事では、業務の切り出しの考え方と具体的な進め方を、3つのステップで整理します。
📑 この記事でわかること
「任せる仕事がない」は思い込みになりやすい
障害者雇用の相談で最も多いのが「うちには任せられる仕事がない」という声です。これは、「一人分の専任業務がまるごと一つ空いている」状態を探してしまうことから生まれる誤解であることが多くあります。実際には、そのような都合のよい空きポジションは、どの会社にもそう頻繁にはありません。
発想を変えて、社員一人ひとりが「本来の仕事の合間にやむを得ずこなしている付随作業」に目を向けると、景色が変わります。コピー、書類のスキャン、データ入力、備品の補充、封入・発送、簡単な清掃――こうした作業は社内に広く散らばっており、それぞれの社員にとっては小さな負担でも、集めれば十分に一人分の役割になります。
業務の切り出しとは
業務の切り出しとは、既存の業務プロセスを分解し、その中から特定の人に任せやすい作業を抽出して、一つの役割としてまとめ直すことをいいます。障害者雇用の文脈では、本人の得意・不得意に合わせて作業を組み立てられるため、定着しやすく、現場の負担軽減にもつながる重要な準備工程です。
ポイントは「人に仕事を合わせる」のではなく、「仕事のほうを整理して任せられる形にする」という順番です。この工程を丁寧に行うかどうかで、採用後の定着率が大きく変わります。
業務を切り出す3つのステップ
ステップ1:社内の付随作業を洗い出す
まず、各部署の社員が「本来の専門業務ではないが、日常的に発生している作業」をリストアップします。「毎日・毎週やっているが、正直ほかの人でもできる作業」という視点で集めると、候補が見つかりやすくなります。この段階では、質より量を意識して幅広く書き出すことが大切です。
ステップ2:作業を分解して整理する
洗い出した作業を、「手順が決まっているか」「判断がどの程度必要か」「発生頻度はどのくらいか」で分類します。手順が明確で、繰り返し発生する作業ほど切り出しに向いています。逆に、その都度の判断が多い作業は、判断部分を既存社員が担い、定型部分だけを切り出すといった工夫をします。
ステップ3:一人分の役割にまとめる
分解した作業を組み合わせ、一日・一週間の仕事の流れとして成立するようにまとめます。作業量に波がある場合は、繁忙期・閑散期で内容を入れ替えられるよう、複数のパターンを用意しておくと安定します。
職種別・切り出しやすい業務の例
業種・部署ごとに、比較的切り出しやすい業務の一例を整理しました。あくまで発想のきっかけとして、自社の実態に合わせてアレンジしてください。
| 部署・分野 | 切り出しやすい業務の例 |
|---|---|
| 総務・庶務 | 備品管理、郵便物の仕分け、書類のファイリング、社内便の配布 |
| 経理・事務 | 領収書のスキャン・データ入力、伝票の整理、定型帳票の作成補助 |
| 人事 | 応募書類のデータ化、勤怠データの集計補助、社内アンケートの集計 |
| 営業サポート | 名刺のデータ入力、送付資料の印刷・封入、リスト整備 |
| 製造・物流 | 検品補助、ラベル貼り、部材のピッキング、簡単な組み立て |
| IT・Web | データ入力、画像の簡単な加工、テキストの校正補助、動作チェック |
切り出しで失敗しやすいパターン
業務の切り出しには、いくつか陥りやすい落とし穴があります。事前に知っておくことで、採用後のミスマッチを減らせます。
- 作業量が足りず、手持ち無沙汰になる――一つの部署だけで探そうとすると、業務が枯渇しがちです。複数部署から横断的に集めましょう。
- 手順書がなく、その都度口頭で教えている――教える側の負担が増え、現場が疲弊します。作業を切り出すと同時に、簡単な手順書を用意しておくと安定します。
- 難易度がばらばらで一貫性がない――「簡単な作業」と「高度な判断が必要な作業」が混在すると、任せる範囲が曖昧になります。最初は難易度をそろえるのが無難です。
- 現場を巻き込まず人事だけで決めてしまう――現場が「自分ごと」と感じられないと、受け入れが形骸化します。実際に一緒に働く社員の意見を反映しましょう。
自社だけで難しいときの選択肢
業務の切り出しは、慣れていないと想像以上に時間と手間がかかります。「そもそもどの作業が切り出せるのか判断がつかない」「洗い出す時間が取れない」という場合は、業務の切り出しやマニュアル整備から支援してくれる外部サービスを活用する方法があります。
また、自社の業務量に依存せずに雇用を進めたい場合は、農園型・テレワーク型・人材紹介型など、支援モデルそのものを選ぶという選択肢もあります。それぞれ費用感やサポート範囲が異なるため、複数社を比較したうえで、自社の状況に合うものを選ぶことをおすすめします。
よくある質問(FAQ)
Q. 「任せられる仕事がない」ときはどうすればよいですか?
A. 「専任の一つの仕事」を探すのではなく、社員が日常的に行っている付随作業(コピー、データ入力、備品管理、清掃、封入など)を少しずつ集めて一つの役割にまとめる、という発想に切り替えるのが基本です。多くの企業では、この「集約」によって任せられる業務が見つかります。
Q. 業務の切り出しは誰が行うべきですか?
A. 人事担当者だけでなく、実際に一緒に働く現場の社員を巻き込むことが重要です。現場が「自分たちの負担が減る」と実感できる業務を切り出せると、受け入れ後の定着もしやすくなります。自社だけで難しい場合は、業務の切り出しから支援する外部サービスを活用する方法もあります。
Q. 切り出した業務が足りなくなったらどうしますか?
A. 業務量に波がある場合は、繁忙期・閑散期で作業内容を組み替えたり、複数部署の付随作業を横断的に集めたりする方法があります。テレワーク型や農園型など、自社の業務量に依存しない支援モデルを併用するケースもあります。
参考・出典
- 厚生労働省「障害者雇用対策」関連資料
- 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)「障害者雇用マニュアル・好事例集」
※本記事は業務設計の一般的な考え方を分かりやすく解説するものです。具体的な進め方は自社の業務実態によって異なります。制度に関する事項は、厚生労働省・JEEDの最新の公式情報をあわせてご確認ください。